ビネガーイール実験⑤

酢酸菌は好気性菌ですが、酵母菌は好気呼吸と嫌気呼吸の両方をするそうです。
好気時には酵母菌が増え、嫌気時には糖を分解してアルコールを作るそうな。

酢酸菌の幕が張るとイールが増えるので初期段階では膜がうっすら張ってくれた方が良いんですが、そうなると空気に触れる面は酢酸菌が独占してしまって酵母菌は嫌気呼吸がメインになってしまいます。
それでも悪くはないけど、でも酵母の分母がでかいほど後々アルコール生産量も増えるわけで、そうなると酢酸菌のエサも増えてイールも増えるので、最初は酵母菌に増えてもらっておいた方が都合がよさそうです。

一応、イールの種を入れつタイミングの違いで2パターンやろうかな。

思い付きで2パターン

そろそろ最終段階

細長い瓶広口瓶
150ml150ml
15ml 15ml
干しブドウ20粒20粒
種水50ml 50ml
種水投入タイミング酵母増やしてからブドウの投入と同時
表の縦横の扱いがいままでと違うのは許して

というわけで2つ瓶容器を用意しました。
適当にやってたプラケースの方で最近青カビにやられたのがあったで、ちゃんと煮沸消毒しました。
本当は液の表面積の差でどんな違いが出るかを見ようと思ってたんですが、それよりも酵母数の違いの方が比較しがいがあるかな…と。

水150mlは浄水で、とりあえず手持ちの計量カップでキリよく量れた限界量。酢はないより多少はあった方がよさげだったので、大匙1杯分入れました。
干しブドウは有機栽培のオイルコーティングしてないやつで、種水はぎっちぎちに増えてるけど液がくさいやつ。

ここまでの条件は瓶の形以外は一緒で、片方はすべての材料を一斉投入。もう片方は酵母が増えるのを待ってからイールを投入します。

左の瓶は酵母をまず育てる

エサ利用するときは中の液ごと水槽投入しようと思ってるんで、左のボトルの方が扱いが楽かな?とは思ってます。
広口瓶はイールを出すのに匙が必ず必要になるからね。


2日目、早速菌膜でてた

次の日見たら、イール入れた方は早速菌の膜が張ってました。
水面下に見えるもやもやがイールです。ご飯を食べてどんどん増えておくれ~。

3日目、酵母オンリーに白カビ生えた

まじか…発酵して水面に浮いてきたブドウに白カビ生えてるよ…。せっかく煮沸までしたのに、ブドウについてたカビ菌か…。
ただ、これは通常のフルーツ酵母でもあり得る事態っぽいので、かびたブドウをピンセットで取り出して新しい干しブドウを投入しておきました。
こういうトラブル時にボトル型だと対処が面倒です。
まあ水草も生やしてる人なら細長いピンセットは持っているとは思いますけど。

4日目、またカビ生えてた

はい、また白カビちゃんがちょと生えかかってました。
こりゃもう酢酸菌に先に繁殖しちゃってもらった方が良いな、ということでここで細瓶にも種水投入。初日から種水投入してた方はもうウネウネになってます。
ちなみに、広口瓶は菌膜は張ってるけどこの時点で臭いはほぼ不快じゃないです。干しブドウのほのかな甘い香りと、酢のすっきりした香りが混ざってる感じで、酢水だけに菌膜張った時の不快なにおいと全然違う。

ちなみにここでは酢酸菌の膜がさっそく張ったので出現しませんでしたが、別枠で適当に始めて実際に稚魚に利用している方は酢の濃度と種水の量をがすごく低めにしてしまったのですが、そっちだと初期段階で干しブドウの周りにもやもやとした菌糸が発生しました。腐ったのかと焦ったんですが、調べたらそれは酵母菌の菌糸っぽかったです。
本実験では酵母菌の菌糸が確認できてないので、やはり酢酸菌が膜を張ると酵母菌は好気呼吸がしにくくなって増殖スピードは抑えられるっぽいです。

7日目・・・ん?

実験開始から1週間たったんですが…あれ?
なんか、左の方、イール減ってる??

前日までは両方とも順調にウネウネしていたんですが、6日目にしてなんとなく瓶を軽くフリフリしてみたんですよね。これやると菌膜が崩れて水中に分散して、また新たに菌膜ができるんでエサが増えるかなーと思って。

そしたらこんな感じに。

この画像では見えにくいですが、右の瓶はいつもの感じで菌膜が復活してるのに対して、左の瓶は3倍くらい分厚い膜になってる。ゴツイ白い膜が浮いてます。酢酸菌のエサが豊富で菌膜が厚くなってる感じですかね。
そして、イールがほとんど見当たらない。

・・・え?これマ?

イール君たちどこ行った?膜が厚すぎて酸欠で死んだとか??
マジかよマジかよと思いながら軽くまた振ったら見えてきたのは、もわーんと崩れた菌膜の靄の中に大量のイールが躍っている姿。

おお…もしかしてエサの層が分厚いからみんなその中に突っ込んで満漢全席で酒池肉林な感じなんですか??
とりあえず死滅とかではなさそうなので、このままもうちょっと放置してみようかな。

別に大丈夫だった

9日目、結局全部たべたっぽい

というわけで、分厚い菌膜が消えてイールが増えてました。
やっぱりエサの層が分厚くて、その中にみんな突っ込んでワイワイしてただけだったっぽいです。

14日目、細瓶の方に異変
ぽつぽつ黒カビ

細瓶の方にぽつぽつとカビが出てしまいました。
これなー、こういう時に簡単に掃除できないから、やっぱり容器の形状は口の広いものじゃないとやっぱり無理ですね。
それにやっぱり空気に触れる面が広い方がエサになる菌が増えやすいから、イールの増えるスピードも速い。
広口瓶の方、イール増えすぎて養液に透明感がなくなってるもの。

わっさわさ

ちなみに太瓶の方のイールの状況はこんな感じ。
もう限界までわっさわさです。そろそろ密度がえげつないので、少しだけ養液を足しておきます。浄水:酢を10:1で混ぜたものです。

22日目、ちょっと放置してた
こっちも黒カビ生えた

ちょっと放置しすぎまして、太瓶にも黒カビ生えました。
ただ、こちらは簡単に掃除ができるので濡れティッシュで周囲をくるっと拭いておしまいです。

菌の膜が張るときは液の表面から壁面を伝って少し上まで白くなるんですが、そのエサを食べにイールがわさわさ壁を上るんですよね。で、そこで脱皮やら繁殖やらをして死んでいく個体もいて、そういう「活動していないタンパク質」が水面よりちょっと上にたまり始めます。
たぶん、それらが時間とともにカビのご飯になってる感じです。

これは実験用で放置しているのでカビも繁殖しやすかったんですが、実際に利用しているときはここまで放置する前に利用を始めるので、水面が揺れたりするし、そこまでカビは出にくい気がします。
まあ、エサやりに使いだしたらほぼ毎日様子は見ると思うので、黒いぽつっとしたのが出てきたら水面のうえをぐるっとふき取るってのを月に1回あるか無いかって感じですかね。

結論: 臭くないイールの育方法はこれだ!!

ざっくり結論:
広口の瓶で、浄水と食酢を10:1で薄め、酵母の種になるものを入れて蓋して常温放置!

そして50%酢水などの一般的に出回ってるレシピは増殖効率悪いうえにコスパも悪いし臭くなるからやめといた方が良い!!

【調べてわかった詳細というか、この結論になる条件というか】
・ ビネガーイールは酢酸菌をエサにしている
・ 養液の酢の濃度が高いと酢酸菌の菌膜が張りにくい
・ 水のみでもイールは増えるたけど水の中にもやもやができた
・ 酢酸菌は好気呼吸をしている(容器の蓋は閉めててもOK)
・ 酢酸菌はアルコールをエサとしている
・ 酵母菌は嫌気環境と好気環境で働きが違う
・ 酵母菌は好気環境で増える
・ 酵母菌は嫌気環境で糖をアルコールに変える
・ 最初は干しブドウで酵母を増やすのだけを先行した方がよさそうだけど、同時に種水と酢を入れてもまあ問題はない。
・ 液を足すときは浄水:酢を10:1をベースに、新しいノンコーティング干しブドウを入れるか、ジュースを1入れる。
・ 酢は穀物酢でも何でもいい
・ 菌の特性とメンテナンスのし易さから考えて、容器は広口のものが良い

こんなところですかね。

まあ最後の方は瓶の形状が違う中で条件の違う実験をやってる部分もあるので若干推論も入ってますが、ほぼ間違いないかなと。
追加液のジュースは糖分が含まれてればいいのでたぶん何でもいいと思うんですよね。まあ安い濃縮還元のリンゴジュースとかの方が香りもいいと思います。

ちなみに自分は利用するときは特に濾したりせず、そのままスプーンで上澄みをすくって水槽にゆっくり入れてます。
イールの密度が高いので、もわぁぁっとイールが広がっていくのを見るのが楽しいです。

食酢の濃度も低いし濾すのが面倒なのでそのまま使ってますが、エビも一緒に入れてる水槽でも特に今のところ不具合は出ていません。

参考
線虫C. elegansとは?(九州大学附属図書館)
あまり知られていない酵母エキスのできる仕組み(Happy Baking)
自家製酵母液を増やす方法(キアラの気まぐれ料理とパン日記)
失敗例から学ぶ成功するポイント(独学パン屋の開業日誌)
長持ちさせる酵母液の継ぎ足し方(独学パン屋の開業日誌)
酵母(wikipedia)